平成二十九年の俳句
  

頻脈を訴え君の今年かな

初日の出姿見えねど鳥の鳴く

若水や右手で顔を洗ふ癖

日曜日から始まりし初暦

我の言うことに母照れ初笑

患いの多き父なり屠蘇せがむ

田舎には来ぬ姪二人寝正月

初日記初風呂の後したためる

黒豆の部屋に満ちたる甘さかな

買初やまず花鰹籠に入れ

角川の歳時記繰りて読始

田作やつくづく思ふ歯は大事

ふと空を見れば初凧よき風に

良き年になる音の鳴る初鼓

弾初をせずにピアノは黒い物

三日の湯浴び終え明日始まりぬ

荷台には箒上向き冬を掃く

心病む人の仕事に注連作

日脚伸ぶ日高昆布の長さ売り

蜜柑剥き最後に皮を食べる猿

直売のみかんの房のらしさかな

洗い物おいとき会話燗冷まし

菜箸の長さ揃わずふくと鍋

葉牡丹の坂道ありし病む心

白菜は四分の一三人分

大大根端から端までごしょきさん

枯尾花にはそれなりの風が梳く

母の庭ほどよいほどの石蕗の花

傘の骨折れるが似合ふ冬の雨

日脚伸ぶ気さくに寿司に誘われし

ストーブを消すチンチンと音が鳴る

全天の真ん中なりし冬の月

冬の月天の途中を知る高さ

金箔を入り江に散らし冬の月

北風は子等を誘惑公園に

半値にて必然を買ふ鰤のかま

虎落笛馬鹿についてと題す本

息白しポップコーンに並びし子

日輪を光背とせし冬の雲

北風の声に子供の声まじる

初場所や芸妓の目線どこにある

ラグビーや前に走れる味方なし

進撃の巨人ぶつかるラガーマン

子規句集左によけて冬の膳

牛蒡切る長さ太さは妻の指示

鰤かまや煮干の量の大雑把

牛蒡食む土の長さの旨味かな

風花や畳に置きし楽茶碗

風花や着信表示京の友

八時半まずは採血マスクして

山眠る点滴おちる一日かな

患者の名番号となる咳ひとつ

朝刊の字は細かくて大試験

書き損じ消しゴムのかす冬籠

底冷えの白と赤なり手信号

北風にステップ踏みしランドセル

作業員競馬の話題冬日向

橋脚の全て緋に染め冬夕焼

パン一枚ふたつに裂きて冬の朝

藪椿かつて一輪しか咲かず

楽茶碗ピアノの上に黒違え

人と犬二人と二匹似て冬日

冬の瀬戸船の行き交ふ穏やかに

霙降る君の機嫌の悪くなる

冬籠本の乱れし長机

冬一日荒れて穏やかまた荒れて

カップ麺奪うごと食べ春近し

クッキーを割り不平等冬荒れし

冬籠アールグレイでひと休み

葉に隠れ庭の椿の人見知り

荒れし日や一月二十日なる一日

大寒やいぼの大きくなりにけり

出がらしの紅茶暮れゆく冬日かな

雲裂きてちぎれて閉じて霰降る

のっそりと寝返りうちし冬籠

冬籠君書き写す禅語かな

実南天どもりの癖の恥いくつ

海鼠食べラジオの話題重力波

曇天の息づかいかな時雨来る

初場所や横綱決める左差し

宿探し飽くることなき日脚伸ぶ

方言の丸出しメール春隣

路地売りの蜜柑食べると海青し

節分や歳を忘れる歳になり

靴下は毛玉たつぷり春の色

立春や患う父の話好き

立春を良き日にせんと厨事

喉仏気になる役者寒の明け

旅で食ふ企て雉は国鳥ぞ

春浅し日射しの影に九谷焼

多くなる義母の口癖春浅し

春時雨少し早めに暮れゆきし

春眠や遠く遠くに鼓きく

春の夢むさぼりそして忘れゆく

春愁の欠片を話し軽くなる

出来立てのフランスパンの温さかな

ワイン飲む?フランスパンに春隣

命題は作るものなり囀りぬ

一尺のあいなめ買ふと春の雨

椿には手折るべきものならぬもの

風花や舞ひ終わりてはまた舞ひし

峠来て春の入り江の青きこと

万人の讃えし色よ春の空

春の陽や心に生れしスペクトル

一日寝て過ごし愚かな春日和

春愁や捨てれぬ箱の貯まるかな

あの辺が汝窯青磁か春の空

価値の無い轍を残しかげろえる

意味の無い水脈曳きずりて朧かな

なにも無い入れ物だけの霞かな

文旦のジャムの香りの日永かな

土の中心の中を春の雨

口あけて大往生のめばるかな

香りにも苦さをふくみ蕗の薹

オムライスカツンコツンと山笑ふ

一番にどの色食べる雛あられ

白魚の境界泳ぐ水泳ぐ

ほうれん草好みそれぞれ茹で加減

ぼんやりと道間違える日永かな

春眠や人それぞれの寝起き顔

春眠や光を浴びること苦手

春愁や得意ではない生きること

菱餅を模した和菓子は俺好み

明日の我心春めくこと期待

顔洗ふ美肌と言われ水温む

つばくらめひゅんと横切り影と去る

ぶらんこを子供のごとく漕ぎし阿保

踏み石をはずし踏みたる春の土

春雨や忘れし傘のうす汚れ

厨事楽しきこの世おらが春

鬱となり死を欲しがりし春の夜

ふらここに子を失ひて揺れしまま

暇な身に日永あまりに長すぎて

どの色も胸に抱かむチューリップ

ランドセル赤黒並び山笑ふ

如月の望月見よと電話あり

笛失せし五人囃子の雛かな

大橋の向こうに沈む日永かな

チューリップ花弁一枚散りしとき

生きることおたまじゃくしのひれ動く

春光や舐める切手の二円かな

眼鏡屋のみな眼鏡かけ長閑かな

電話して話で土筆採りにけり

墨香る「し」の字のびのびのどかかな

お品書き文字数多し春キャベツ

いい音をさせしべったら春の宿

春の鯛締めの茶漬けの熱さかな

花咲いていわゆる世間の春となる

春の夜我が家の灯り二人分

単線に一両がゆく長閑ゆく

春の夜一枚羽織り本を読む

見得を切る長閑なりしや勘太郎

マティーニのライムの香り春の夢

もしかしてこの世にあの世桜かな

島多きことの喜び瀬戸朧

初蝶や光と風の交わりて

筍に侵略されるかの如く

青空の端のほうにて囀れり

漣の光に消える残り鴨

鍵ひとつ少なくなりて春惜しむ

牡丹といえばあの人会いに行く

訪ねれば牡丹はすでに散りにけり

思案する白の牡丹の庭の位置

牡丹や風にはかなく散る予感

池堤全力疾走子供の日

春雀池の真上は飛ばざりし

新緑を飲み干すごとく抹茶かな

石ころはどこにでもあり卯波かな

粽食べ柏餅食べ年を食ふ

竹の子の名残を買ひて午後は雨

立夏過ぎ初めての雨香りくる

庭のぞき大山蓮華下さるる

鯵の目や先ほどまでは生きてをり

大男大声出して生ビール

我の汗分泌物と言われけり

薫風はランナー連れて抜き去りし

週末はビール日和といふ予報

守護神の如く青田を護る鷺

夏場所や終わりほどきしテーピング

三本の安く重たく淡竹かな

麦秋や雲が西へと向かってる

蛍や闇から闇へひかるかな

花菖蒲庭師三人ひと休み

ミノ食って良き喉仏生ビール

盤上にシンギュラリティー青嵐

紫陽花を右隅に撮り日本海

万緑をひと浴びせんと露天風呂

青鷺や静から動へ誇張せし

濃い化粧濃い香水のすれ違ふ

さつぱりと忘れたいこと生ビール

万緑に日本埋没する予感

歩く人走る人それぞれの夏

短夜に届きし姪の手紙かな

電気屋の風心地よし扇風機

幾たびの危機乗り越えてこの日傘

残り鴨二羽でひとつの水脈引きし

望遠鏡のぞく先には織女星

七夕や宇宙に二人煌めきし

灯台を涼しく囲む日本海

丈低し夾竹桃の親近感

よき庭の放たれてをり夏座敷

扇がねば煩う重さ団扇かな

偽物の男前なりサングラス

神様の遊びごころかてんとむし

甚平や男は無粋なるものよ

崩れては湧く噴水の平和乞う

忖度と言う文化あり敗戦忌

水打てば石も庭木も香りくる

蛙の夜我の気配に鳴きやみし

さくらんぼ乙女の心図案化す

枇杷を模す和菓子の小さき小さきかな

おはようをかわす先には蓮の花

短夜や今朝亡くなりし百五歳

非情にも同情湧きし腋臭かな

雲の峰無理難題の高さかな

焼き茄子は二品目なりお品書き

夕焼やまず沸き起こる里心

冷蔵庫熱力学の音静か

空蝉を手にいっぱいに笑顔かな

阿波踊りまねて見せたる妻笑ふ

煩わし小蝿殺めて快し

朝刊を夜に読む癖夜長かな

風鈴や嘘も秘密もなかりけり

いやいやで立たされている案山子かな

阿波に来てぞめき聴きつつ生ビール

独唱の鮮明なりし虫の声

焼き茄子と一番出汁を冷やすかな

思考とは授かるものやホ句の秋

半月や東半分西半分

いま僕は月から風を受けている

虫時雨真っ只中の立尿

秋澄みし和声も澄みしピアノ聴く

南から北へ鴉の秋の暮

ついていくポルシェのあとを秋の旅

花街には外人ばかり秋の夜

序の舞や井筒に芒時止まる

名月やおはぎに歯型くつきりと

秋冷や蛍光たすき並びをり

桃ほどに優しさのある形なし

師と吾の書比べる妻の良夜かな

長机短冊並べ秋高し

黒い花器白さ際立つ鞍馬菊

軽トラと高い脚立の松手入

たくさんを剥いてじゃがいも尽くしかな

稲架あつて得した気分今日一日

過去の君梅林の中立ちにをり

図書館の窓の大きく薄紅葉

秋の空峰に並びし風車かな

奥里に行けば行くほど稲架のあり

水澄みてブルー手にとる仁淀川

露天の湯湯気の遠くに薄紅葉

締めに飲むドライマティーニ秋深し

晩秋や独語電波で飛ばしをり

柿たわわ落ち込む先は用水路

秋雨や母の嫉妬のように降る

新米に熱い味噌汁だけでよし

下座にて秋の明るさ背に受けし

秋を吸う心と体澄みわたり

大皿に三つずつなり柿と梨

分かるとは気のせいなりし夜長かな

水澄みて洗われていく京野菜

賀茂茄子や皮むく女将左利き

図書館の雑木紅葉に絵本借る

三越は一足早くブーツなり

水引や虫に食われし葉のひとつ

熊笹の行きつく先に天高し

夕日浴び色を増したる柿たわわ

焼き芋を一個手に提げ帰る道

穭田や父を迎えに田舎道

薄切りの松茸五切れかけうどん

難読の漢字調べて冬隣

雁並ぶ形は西に吸い込まれ

後の月東の空はまだ青く

分け与え分ける喜び後の月

確かめるシグロの重さ惜しむ秋

いつまでも高いところに松手入

秋桜に埋もれし畦を真っ直ぐに

秋遍路皆が垂れ目の笑顔かな

アルバムは埃に埋もれ暮の秋

立像の臀部に魅入る惜しむ秋

あの先に銀座の夜景後の月

人多し有楽町の後の月

ビル谷間ヘリの谺しそぞろ寒

小さきや冬の銀座のいなり寿司

レオナール冬の銀座に能を観る

助手席に居眠ることの小春かな

またひとつうどん屋知って小春かな

小春にはフランスパンの端が好き

鍵穴も鍵も冷たく精神科

蔕と種だけの残りし吊し柿

大木の仁王の如し冬の空

おっさんはまけておくよと栗を売る

たっぷりの紅葉を得むと寒霞渓

冬の旅今日の思い出水脈の先

切干の好物となる歳となり

銀杏を剥きし男の自立かな

銀杏に始まる夕餉粋なりし

うどん屋で無縁は縁紅葉狩

まっすぐと紅葉の中の杉木立

蒟蒻を持ちて結願紅葉狩

結願の中に揺れをり残り萩

散り紅葉手に取る子供父に見せ

行ける時行けば良いよと紅葉狩

三叉路の突き当たりにて芒の野

豆柿の一個は落ちて植木かな

残る鴨渡る鴨より肥えてをり

波郷の句読む時便意暮早し

日短長らく我は世捨人

水洟や鏡の前に立ちし時

切干や父の透析始まりし

花好きの母の忘れし石蕗の花

憶えてるふりして母の白椿

庭いじりして冬一日だろう母

柿配るたくさん配る人のあり

小春には公園球の飛び交いし

風凪いで池は静かに浮寝鳥

鴨の水脈池に描いて消えにけり

肉買うとこれをどうぞと冬薔薇

落葉踏む人の選ばぬ道選ぶ

一面の芝生は広く小春かな

カップ麺四種二個ずつ暮早し

いま何をするか忘れてむかご飯

おでん種夕餉の会話楽しみに

おでん種妻は謡の稽古の日

鍋のぞき眼鏡曇りておでん酒

荒れ庭にピンクの椿すでに落ち

おでん酒昔は上戸今は下戸

芒には織り込まれゆく夕日かな

目玉焼目玉ひとつの冬日和

迷い箸ちくわを選ぶおでん酒

靴紐は何度もほどけ紅葉狩

人生を噛み切る弱さ薬喰

耳遠い人に二度問ふ冬ぬくし

初時雨街灯早く点きにけり

冬籠ほぼ生きとると笑われて

秋刀魚食ふ半人前の小言かな

焼鳥屋一人下品な笑い声

焼鳥屋孫の話題を頬張りし

焼鳥の胡椒一粒のちに噛む

日短君のめくりし花図鑑

柿の色もっとも熟れて吊し柿

暮早しいつもと違う長机

口笛は突如放たれ日向ぼこ

物捨てず人を気遣ひ白椿

偶数にゆずり合い無し冬苺

一日は鬱のごとくに冬籠

冬の窓ネオンと我の重なりし

平面に物はかさばる冬日和

一日ごと人生ずれし冬籠

師走とはこういうものかドア軋む

朝刊をめくり今宵はおでんかな

それぞれの水脈を描きし池の鴨

日毎見る庭の景色も年の暮

庭を見る間に三枚の紅葉散る

マフラーをほどいたのちの有難さ

君気づき我気づかずに落椿

無造作な時そのままに落椿

南天やひたすら坂を京径

京都御所道間違えて暮早し

手入れされ深く敷き散る紅葉かな

京都駅マフラー同士肩ぶつけ

鯖寿司は京都の余韻時雨来る

年の暮家はだんだん狭くなり

万全に着膨れてをり散歩かな

凩を連れて一周池散歩

風花や鼓の稽古終えし時

咳するや嫌いな人に嫌われし

虎落笛薬飲まねば我狂人

多様性その犠牲にぞ冬の我

またひとつ母の椿がおちにけり

食べ方に二人の違い蜜柑かな

日短他人は塵の長話

お互いの手は冷たくて握手かな

火鉢にてミノを転がし優しき火

気を揉みて気遣いもして暮早し

風花や二十年なる句縁かな

活けられしつばき手にふれ落ちにけり

キムチ鍋韮の無くなり相を欠く

着膨れて鏡に映り鼻ほじる

落椿ほったらかしの十四五個

冬至知る天声人語読みしあと

春支度諭吉七枚お釣りあり

お隣の冬至南瓜や昼一時

父に似る顎剃りにくさ柚湯かな

着膨れて上には上があるものよ

忘年会子供の声もありにけり

年忘こはだ頂き締めとする

近視にて赤兎馬見えぬ年忘

二階から笑い声なり年忘

雨の降るよくない知らせクリスマス

ここに在ること大奇跡なり聖夜

朽ちてなお散ること知らぬ白椿

底冷えを伝えんとする手から手へ

鳥は葉に擬態となりし楡枯木

ガリ食って欠伸の出たり年忘

数え日もあと三味線の弦の数

年の瀬や机に辞書と鍋を置く

鰤かまも御祝儀相場六百円

大晦日メモ書き多し工科卒

いりこ出汁よくきいてをり晦日蕎麦

年取りて天命知らぬ五十かな

年惜しむことなかりけり悔いはなし