平成二十八年の俳句
  

正月や国旗掲げる家のあり

航跡は白く輝く冬の空

初稽古鼓打つ手のしなやかさ

初鼓浅き眠りを誘いをり

箸置きに箸休ませておせちかな

闇の中灯りの在りし白椿

初詣義母の手を引き一歩ずつ

干支は申猿に出くわす初詣

しつけ糸とりし仕草に日脚伸ぶ

内海の春島々を浮かべをり

春隣もう一献と京舞妓

ひろうずや銀杏ひとつぽろりかな

湯豆腐や昔話は南禅寺

白鵬の一番を観てふくと鍋

かぶら蒸しパウルクレーの絵を見つつ

零度以下輝きを増す冬の月

水仙や香り白さを湛えをり

傘忘れ来た道戻るふくと鍋

ふくと鍋話題にならぬ重力波

風花や米寿を祝ふお茶を点て

お能観て散歩をしたき京の春

春風や石仏に会う京径

高瀬川どの小店にも春灯り

春雨を我と隔てる硝子窓

白魚やかろき命の透きとおる

白魚の警笛黒き目玉なり

蛤の殻は芸術磯の技

山笑う讃岐と伊予の違いあり

畑にて嫗と話し葱坊主

春のもの雅いただく京の旅

ノクターン朧月夜にとけてゆく

春の雨静かに聴きし夜の更けて

初夏の朝うどんの列に加わりし

水面には苗のひかりし田植かな

たっぷりと庭の緑を揺らす風

目の眩む緑の高さ故郷の山

月はるか月見草をば手折りけり

茎取りて迷いなくなりさくらんぼ

小指からふいと飛び立つ蛍かな

夏の潮龍馬見下ろす桂浜

龍馬像心の高さ雲の峰

夏の潮龍馬の叱咤波しぶき

苔に影風は清しく竹林寺

蝸牛あの歩み今どこにいる

時折の風が涼しく植物園

広き庭影に椅子あり涼を取る

飯山の緑大きく旅終える

西日浴び全ての事象暮れなずむ

万象はすべて平等夕の凪

溜池の風は涼しく街明かり

あまりにも仲睦まじき残り鴨

カーテンの色それぞれに夏の夜

夕凪や群れなす鳥の黒きかな

ウインカーどれもせわしく熱帯夜

カングーは黄色が似合う夏楓

四股を踏み汗の吹き出る名古屋かな

にぎり寿司生簀の前が指定席

唐揚げの虎魚形相睨み食む

夏蝶や青く茂りし庭の中

花泥棒罪を重ねて木槿盗る

迷わずも一度会いたし道をしへ

夏料理喧嘩の元はゆずりけり

公園の夏の広さや子供たち

茂吉好き鰻の皮も食べなされ

背中には祭一文字歩きをり

二人してオストリッチや鰻食ふ

汗にじむ客をもてなす厨事

人招き鱧の長さと太さ買ふ◆

名古屋場所熱気団扇であおぎをり

出会いまた出会い人生心太

絹雲や未来は過去となりし今

忘れ物時に空白秋近し

シューマンの献呈を弾く緑夜かな

雲の峰並びて競う高さかな◆

千代の富士相撲人生土俵割る

繰り返す愚痴耳にして法師蝉

向日葵や部屋に一輪笑ひあり

新聞と栞と本の夏座敷

籐椅子やただ何もせず考えず

思索するノーと首振る扇風機

君は書く団扇に風の一文字を

大夕焼志度の街並み異国めく

黙祷や蝉と鐘の音響く中

平和とは如何なる仕組み原爆忌

立秋や形変えゆく雲なりし

リオ五輪話題は今日の桃なりし

落ちてくるもののひとつに百足かな

夕焼と大吊橋のシンフォニー

遠花火背中で聴きし影二つ

建物の影に隠れし遠花火

阿波踊り下手でも踊る調子者

花泥棒次に狙うは柘榴かな

制約の中には自由ホ句の秋

客去りてワイン二人で吞む良夜

丘に立ち夕凪の田に煙立つ

田園の稲の遅速の構図かな

寿司屋にて戦争体験語らるる

新米や多め粧ふことにする

ひかる汗そして白球甲子園

サックスの熱い音色や日傘買ふ

亡き人の思い出となり枯るゝ薔薇

吊り輪持つ新涼の景流れゆく

断りの着信メール桐一葉

羅や軽き鞄の旅なりし

秋の山過ぎ行く速さ新幹線

片影を歩いた先に出会いかな

無口にて日傘くるくる回す人

思い出は煮詰まるはずが心太

嫌なこと汗と一緒に流す風呂

仙厓と親しき老舗水羊羹

大庭に沢蟹をりし北山杉

雲が行く光まとひし野分あと

野分あと雲に個性の際立ちし

野分あと風の荒さが丁度良く

窓開ける風より先ずは虫の声

夜長にはラヴェルの和声透きとおる

カーテンのふくらみ豊か野分あと

上出来の烏賊飯できて新酒呑む

風鈴の音色いただく隣から

病巣に見えし柘榴を君活けし

夜長にて偕老同穴語り合ふ

百日紅三色揃う庭ありし

新涼や人の話の裏表

唐揚げの虎魚の背骨ぼちぼちと

形相を食べし虎魚のいかつさよ

桐一葉栞となりし手紙かな

ドイツから訪ね人あり鰯雲

大粒の涙流るる夜長かな

家系図を囲みて話す夜長かな

美しく竹の春にて入籍す

竹の春高く寄り添い光りをり

秋灯下白髪の似合ふ歳となり

病室にゆらぐ心と虫の声

君眠るその横で聴く虫の声

病室のベッドから見ゆ秋の空

明日手術話題途絶えて虫の声

点滴や一日長し九月かな

仲秋や手術を待ちし四人かな

病床で寝返りうちし相撲観る

手術終え管のいてゆき吾亦紅

それぞれに贔屓の力士あり良夜

月出たとメール着信見る気せず

十六夜にラーメンひとりぼっちかな

道暗く心は暗く暗い月

こがね虫迷い込みたる自動ドア

吾亦紅ベッドの横にありぬべし

痰の出て明日は糸瓜忌手術痕

居待月待合室に人をらず

秋草やペットボトルに活けておく

痰からみ二人眠れぬ夜長かな

吾亦紅術後の痛みあちこちに

おなら出て喜ぶ術後吾亦紅

入院という制約の夜長かな

術前と術後ラマダンごと九月

秋場所や初白星は勇み足

辛口の相撲解説北の富士

塩握る手に闘志込め大相撲

稲光夜空一面憤る

寝待月背中をさすり君眠る

吾亦紅男看護師乳房見る

秋桜を盗って幸せかすめとる

大銀杏乱れ白星大相撲

すりおろす梨を持つ手に心込め

宵闇に聴くべしショパンノクターン

本を読む他に術なし虫の声

いい風と虫の音とノクターンかな

入院の季節流れる秋彼岸

惨めでも食べる喜び林檎剥く

曼珠沙華景色がそこに燃えさかる

病室の窓からだけの爽やかさ

二輪摘む泥棒の欲曼珠沙華

曼珠沙華君の手にあり命燃ゆ

夜食用巻寿司ひとつ残しおく

枝先にこだわる灯り吾亦紅

琴電の乗客まばら星月夜

お互いに呆けるが良しと夜長かな

平行に航跡二本秋の空

世に詩人数多なりしや瓢の笛

瓢の笛あの音と共消え失せし

西紅く東は碧く帰燕かな

朝刊を夜長に読みしノーベル賞

秋深しワイン銘柄覚えれず

背に小菊喫茶の紫煙嫌でなく

見上げれば桜紅葉の丘なりし

里芋や味も香りも土由来

秋の田に集落混じり田舎かな

そぞろ寒闇夜に響く鼓の音

能面のずらりと並びそぞろ寒

庭に来て気まぐれに去り小鳥かな

月曜日朝刊三誌ホ句の秋

雲ひとつ愛嬌のある天高し

自転車や青春走る秋の風

大橋の橋桁高く秋深し

変わりゆく絵画のひとつ薄紅葉

思い出の絡む浜辺や秋惜しむ

寄り道をして盗りしこと草の花

行秋や何を見ている君の目は

糸こんの長さに見とれ暮の秋

行秋やネオンの中に紛れこむ

雲ひとつなき空に立つ銀杏紅葉

紅葉狩打ち込みうどん大窪寺

初冬やピアノソナタはシューベルト

消しゴムの姿を消して冬の入り

まなかいに残る鮮明紅葉かな

凡人に分からぬ禅語亥の子餅

山頭火日向ぼつこをしてる句碑

秋刀魚皿伊部の里で見つけし日

切干や義母に訊ねて義母の味

増えてをり年尾の句碑に杜鵑草

初時雨庭の楓の幹太く

君拾ふ銀杏落葉の色形

口癖になりし日毎の暮早し

皿欠けて思い出欠ける初時雨

見出しのみ朝刊眺め冬日和

不機嫌に一日終わる初時雨

研がれし刃冬の三日月闇を切る

紅葉することはただただ人のため

冬めくややや腹立てて爪楊枝

トンガとは何処か調べる南瓜かな

小春日や三人歩く丘の上

からつぽを乗せて電車の小春かな

小春にてポストの赤が目立つかな

誘われて土を踏みたし枯尾花

白椿一輪ほどの支えかな

おいしいと言える人居て小春かな

唖然とは口開けたまま冬紅葉

病癒え小春のような日々望む

落葉踏む音もひとつの自然かな

肺の奥奥まで小春吸い込みし

冬紅葉窓際選ぶ喫茶店

邂逅の二輪タンポポ帰り花

一葉ごと顔料となり紅葉散る

冬ざれを切り取り写す水溜り

マスクして口元透ける苦笑い

鮮やかな白そのままに落椿

曇天の工事現場に枯尾花

一陣の風はらはらと散紅葉

品の良い子供が拾う落葉かな

紅葉見ゆ君は堂々上座かな

衣脱ぐ纏う紅葉の散りゆくは

山々の粧ふ個性自由なり

凩やクレーンの先鈍色に

綿虫や視線の先を弄ぶ

小春日や君何気なく腕を組む 

凩や前歯の欠けた男の子

追いかけてそして去りゆく枯葉かな

枯木立一葉一葉と別れ告ぐ

外人の讃岐訛りに小春かな

山の端の色淡くして暮早し

少しずつ色抜いてゆき冬ざれに

マフラーの色に包まれ人のゆく

山茶花や時は去りゆく停留所

房丸く収めて一個蜜柑かな

口開けて眠る癖あり日向ぼこ

ひとりよりふたりが良いと日向ぼこ

すき焼きや父の味付け嫁苦手

くしゃみして注目浴びし喫茶店

雨の去り紅葉際立つ空気かな

ストーブを灯ししばらくその火見ゆ

時雨をり朝刊届ける人のいて

葉を濡らす音微かなり時雨きて

山眠るさらに眠りし暮れなずむ

ストーブの灯油ポンプの残尿感

冬ざれや心の芯も鈍色に

寒き夜癌に抗ひ髪は散る

ストーブや朝はまだ来ぬ本を読む

カーテンを開けまだ暗く冬の朝

陽も風も部屋の奥へと大掃除

五剣山寝返りうつか山眠る

冬ざれやされど入り江の明るくて

諳んじることのよろこび冬の月

コンビニの闇に映えゆく冬の宵

冬の空夜を知らせる星ひとつ

百日紅隣の庭の冬紅葉

語り口どこかとぼけて日向ぼこ

昨晩の雨に紅葉の散る定め

柿二つピアノの上にワルツ弾く

ストーブや我が家は物の持ちのよく

フランスパンひときれ残し日短

部屋に置く地蔵伏し目におでん酒

飾りをるモネの日の出に冬の朝

青春の二人乗りには冬陽さす

二人して心ささくれ病みし冬

鴉とは悪友なりし枯木立

鈍色を残し降り止む冬の雨

訳ありの十個の林檎タルトタタン

心は無林檎剥く時タルトタタン

気がつけば鍋底焦がし山に雪

鰤かまや三人分の笑みを買ふ

鰤のかま炊き終えフーガ聴き終えて

包丁を研ぐ商ひを買ふ師走

買うよりも貰った方が柿旨し

心には林檎ぐらいの重さあり

殺めたしこしゃくに飛びし冬の蝿

大根の茹でし香りの部屋に満ち

大根や肘つき食べる癖ありし

三分を待つて冬至のカップ麺

柚浮かぶ狭き湯船の独り言

冬の空鴉の黒さ意地悪し

蛍光灯なかなか点かぬ部屋の冬

山眠るまだ櫨の緋を抱いたまま

丘眠る閉鎖病棟冬ざるる

部屋静か石油ストーブちりちりと

冬の蝿殺めし今朝のすがすがし

病む人の多し医大のマスクして

故郷は山を背負いて冬ざるる

じたばたと無縁の暮らし年歩む

ことごとく紅の山茶花バスのりば

冬うらら電話を待ちし喫茶店

讃岐富士八栗屋島の冬霞

大楠や木枯深く包み込む

前ぶれはなくて時雨るゝ明るさや

山眠る峠を越えて入江かな

降りて止み降りて止み又降る時雨

駐車場満車だらけの師走かな

世の中は頑張りすぎてをる師走

日短キリンの首と象の鼻

冬帽子好みは柄の派手なもの

飾売酉の鶏冠の意匠かな

飾売店屋の出入り口の外

無精さや寝癖そのまま冬帽子

らふそくのひとつは消えてクリスマス

クリスマスプレゼントのごと薬かな

冬の昼ロールキャベツの残り物

あるだけの蜜柑並べて二個選ぶ

蜜柑食む男と女野暮と粋

柿たわわ全てはたぶん禽のため

上品な君の習わし蜜柑食む

枯木立空に伝える幹の意志

冬の凪丘から眺む瀬戸ひかる

英霊の墓に手向ける冬日射

来年を丸めてをりし初暦

晴れ続き音をため込む落葉かな

今といふくびれ年の瀬砂時計

父の名は勝利なりし十二月

まだ知らぬ讃岐弁あり年の暮

君は子規我は角川読みし冬

粕汁や獺祭の粕手柄なり

手にあまる高さを切つて枯木かな

枯枝を切るも痛さを訴えず

車椅子点滴マスク杖医師

身に覚えない傷ありし鎌鼬

煤籠免疫数値下げし君

オリオン座荒星三つ胴に据え

父と行くプラネタリウム冬昔

数え日やシャープペンシル芯補充

粕汁や体の芯は心なり

ぶぶ漬や老舗昆布の年の内

粕汁を食つておならの臭さかな

砥草の根狭庭のっとる冬日向

プレドニン十個あと味蜜柑かな

冬の水利尻昆布を拡げをり

しゃぶしゃぶや利尻昆布の冬ぬくし

気短指摘を否定日短

冬の土運ぶトラック土の色

雨降ればまた一段と冬ざるる

冬枯木枝も幹にもある覚悟

三人が句集手に取り日短

日短夕餉の前の大欠伸

北風やブーケガルニをポンと入れ

踏まれるを待つていた音落葉かな

咳をして心に問いし善と悪

困るもの呉れる人あり晦日蕎麦

手まわしは行き届きをり年の暮

宙を見て思索に耽る年の内

こだわりの一品ありし御節かな

あん餅の雑煮ことわる讃岐人

故郷捨ててあん餅雑煮好きになり

餅好きの嫁に付き合う餅二つ

冬帽子中身を隠すつもりなし

大晦日厨仕切るは男なり

余裕なし三越地下の大晦日