平成二十七年の俳句
  

黒豆の尽きて日常戻りけり

仏の座仏の顔して狂い咲き

蝋梅や自然の宝輝けり

句を詠むは心にゆとり春隣

レッスンの後の紅茶に冬陽射し

一輪の梅に探梅成功す

枯蓮や池埋め尽くす挫折かな

枯蓮や挫折を一個持ち帰る

河豚の店一本道を間違えし

松山や若者の街春立ちぬ

玄関にそのままにした落椿

北風に向かって走るランドセル

山眠る山の頂白くして

手毬麩や三個浮かびて春浅し

春の旅終わり茶漬けで済ます夜

会える日のかならずあらむ春立ちぬ

春浅し欠伸ばかりの日曜日

猫の恋時節知るかのように鳴く

冴え返る進化の果てを戦争す

たくあんの厚みを論議紀元節

春浅しひろうずかろく浮かびをり

山の端のやんわり染めし春の朝

歯ごたえは海鼠の固い意志なりし

昆布茶漬すすりし明日春の雨

香りくるしめのほうじ茶春夕餉

春に出で人ひっぱりしブルドッグ

包丁の切れ味鈍し水温む

粕汁や具をこっちやりあっちやり

伊予柑や大きく一個存在感

たくあんの噛む音春の夕餉かな

春雷や喧嘩の先手まづ男

白酒の記憶は京の宿にあり

時は過ぎ喧嘩の果てて春時雨

いち早く土筆を踏んだ便り聞く

いつからか涙流さず落椿

うつむいて歩く癖あり青き踏む

春の川光の紐に導かれ

春光やふさぎこむことなかりけり

大試験あまり気負わず笑ひをり

丘の春心の不具は癒えにけり

詠みし春刹那刹那を逃し気に

白梅や智慧は情けの道具なり

翳りきて憂いの空や春時雨

世の滓を春にうずめて病む心

君の手に触れて揺れしや白椿

無意識は人傷つけし落椿

雛人形よくよく見ると個性あり

落ちそうな予感まといし白椿

春浴びて羅漢の笑顔苔に消ゆ

春泥や心の濁り預けたし

春の雨すたれちまった街に降る

亡き友の遺しレコード鳥帰る

長らくに通らぬ道や春の雲

桜の樹散りたる花を見守りし

人の死は突然なりし春に逝く

吾の白さ穴子白焼きほどなりし

放尿の後ろめたくも風光る

春めくやゆたりゆたりと歩く人

花曇笹持つシテの隅田川

この坂を詠み花を詠み逝った人

つちふるや月と見まがう陽の沈み

山笑ふ君のうがいの呑気かな

山吹や白さを散りて闇に浮く

春の空ポカリと浮かぶ雲のんき

とっぷりと暮れてしまって柳消ゆ

虚子忌には虚子を語るる友なりし

ハナミズキ肉屋ご主人自慢する

ほぐされて話は長閑接骨院

すずらんやピアノ弾き終え立ち話

薫風や不協和音の透きとおる

思ほへず庭に立ち入り薔薇の花

庭々の若葉気になる散歩かな

網戸から網戸へ抜ける風の中

一輪を平らな皿に紅椿

麦秋や土を侘びにす半泥子

網戸から子供の声の大きかな

小蝿飛ぶ無から生まれし如きかな

無から無へ暫く在りし小蝿かな

どの若葉よりもつややか柿若葉

枝ぶりの主張を切りし若楓

見上げれば花を讃えし泰山木

存在の有無を明滅蛍かな

ルビコンを渡った蛍捕らえたる

沢音と闇を好みし蛍かな

庭見れば未央柳の黄色かな

大海は大甕の中金魚なり

トンネルの外万緑に違いなく

新緑の中を分け入り萩の旅

鬼萩や手に入れ夏の日本海

片陰や萩の土塀に志

松陰の学舎狭し竹の秋

萩の旅緑の中の露天の湯

大橋や瀬戸の潮の夏めいて

熱からふ焼かれし鰻首をふる

日常を遥か遠くに菖蒲茶会

萩焼や二つ並べて夏座敷

若楓風に吹かれて逝きし人

五月晴表情読めぬ地蔵かな

池の上空のみぞあり山法師

夏座敷会話とチーズ赤ワイン

熊ん蜂蜜に誘われ蛍袋

少年の走る速さや夏の池

ピアノ弾く待ち時間あり夏料理

稲と稲間すばやくあめんぼう

あめんぼう田圃の平和作りをり

一輪や盗みを犯し百日草

夕凪や硝子でできし赤灯台

絵葉書を選ぶ楽しさ夏の夜

向日葵や全員よそ見せずにをり

蝉時雨空気を焦がすかの如く

生花の向日葵萎れ失くす物

配色は狭庭の緑空の青

夏座敷寝そべり何もせずも良し

葱もある大根もある冷蔵庫

蝉や蝉蝉蝉蝉と騒がしく

闇に映え闇に消えゆく花火かな

花火見て記憶を手繰り寄せてをり

皆が皆追憶胸に花火見ゆ

ああ無情闇を残せし花火かな

色重ね重ねて花火闇の色

空と海青く島々緑かな

遊鶴亭晩夏一望瀬戸内海

向日葵やああ一輪となりにけり

蝿虻蚊殺すべきもの殺すなり

麦酒飲む腕にお洒落な腕時計

瓢箪やまさに瓢箪この瓢箪

干肉を食べ酒くらう夜長かな

美声とも音痴とも言えず法師蝉

鈍色を茜に染めむ大夕焼

小銭見て溜息つきし九月かな

秋の夜ほんの少しの疲れかな

カクテルを夜風を浴びて夜長かな

一枚の海に浮かびし島の秋

包丁を入れる腐った林檎二個

この庭を好んで白の曼珠沙華

人嫌ひ祭嫌ひもなくなりし

取り囲む子供の真中獅子踊る

見えぬ風現る時や秋の蝶

地蔵様祭の鐘に耳澄ます

三日月にひとりぼっちと言われをり

天高しこの航跡はどこへ行く

漣や光となりて秋の池

神戸には流れるネオン秋深し

秋の夜ネオンの中に我もをり

恩知らず母を謗りし夜長かな

ハロウィンや子供うじゃうじゃオレンジ色

この紅葉きっと庭師の仕業なり

何者と自分に問ひし枯葉踏む

行秋や過ぎし未来と過ぎし過去

穭田や今年の苦労並びをり

百日紅紅葉になりて又も紅

島民に墓を訪ねし秋日和

島の秋人の数より墓の数

小春日や話しなごやか島の人

山門は紅葉で人を迎えをり

手に取ってみたくなりたし紅葉かな

銀杏紅葉賽銭一円結願寺

瀬戸の海冬の海でも穏やかに

枯蓮や崇徳上皇仙居跡

古馬場のいつもと違ふ師走かな

賑わいを嗅ぎし古馬場師走かな

北風や人を無口にさせにけり