平成二十五年の俳句
  

冬薔薇ムジークフェライン飾りをり

持ち曲を皆が弾き初むピアノかな

天上の詩片舞い散る雪の華

山眠る山は動かぬ五剣山

年経れば転がるやうに去年今年

仏面鬼面ありし蜜柑かな

お隣に卵をもらひふくと鍋

しつけ糸取りて高揚春隣

船弁慶鬼気迫りたる初鼓

飯山やふくらみそして山笑ふ

瀬戸の海確かに春を帯びてをり

いぬふぐりよける術なしこの畦を

ラの音で春紡ぎ出す音合わせ

合唱は神の降臨瀬戸の春

口笛に春の宿りし畦歩く

東風吹かば口笛吹きし畦歩く

酔っぱらいこの曲がり角杏かな

食べるなら土筆の袴取るは義務

何事も無きかのように丘の春

白魚のなかなか箸に収まらず

白魚や残る一匹生きの良し

四月馬鹿二日にせずを気が付きし

祝言のあとは寂しく花の散る

春風に誘われちょっと歩きたし

見るよりも聞くのが早し田植かな

茹でられて浅蜊の口に戸はたたぬ

雲辺寺心の澄みし風薫る

雲辺寺四国の峰々若葉風

ロープウェイふりかえ見れば山若葉

家元の点前涼しく献茶式

片影を歩くが似合う美観地区

ひねもすや川辺の柳そよりそより

網戸から網戸へぬける小さき家

淡竹食ういい季節だなと考える

消えるまで眺めていたい虹がある

儚さや夢を見るやふ虹消ゆる

隣人の嬉々と語るや布袋草

いつまでも二人でずっと虹ながむ

青田風不惑の歳を泳ぎたし

万緑や心の無限覗き込む

ノクターン秋の憂いを奏でをり

万景に隅々までの蝉の声

赤子抱く男六尺お盆かな

絹雲や人はそれぞれ不完全

湘南に関心なくも雲の峰

心病むことの不思議さ吾亦紅

浜の秋ジャンヌサマリの笑みを買ふ

星月夜心は闇の底にあり

秋の蝶心に淡い情けかな

少年の輪郭凛々し鰯雲

月明かり少女の目には涙かな

生ビール正論曲げる大人かな

浮かぶ月百億円で買いたしや

ルナティック月は我らを狂人に

真夏日の続き秋声しゃがれをり

木枯らしやナッツを口に放りこみ

湯豆腐の怒り鎮める効果かな

山門をぐるりと紅葉つつみけり

山門は紅葉の景を縁取りし

京紅葉京の風格ありしかな

湯豆腐をつつき会話の弾む旅

永観堂我も紅葉をみかえりし

鞍馬寺登り紅葉に讃えられ

叡電や鞍馬の紅葉語り合う

庭々の紅葉それぞれ誇らしげ

ベビーカー押す人多し年の暮

枯蓮や大志の折れているような

一歩ごと景の変わりし紅葉かな

闇照らすライトアップの紅葉狩

バカ笑い響く店内忘年会

禿頭を下げる謝罪の師走かな

興行の日を過ぎ思い出す師走

洋楽を聴きたくなりしクリスマス

柚子風呂や句は浮かばずに柚子浮かぶ

いつもより多く思索す柚子風呂や

大掃除終えて居間にて大の字に

年の瀬の陽を呑み込みし太平洋