平成二十三年の俳句
  

あの皿とこの皿欠けて年明くる

一個だけパン買う子供息白し

釜の湯のたぎる外には牡丹雪 

日脚伸ぶ心のゆとり空を見る 

薄氷と我の心の薄さかな

坂登りつめて道後の宿ぬくし 

道後の湯今日の思ひ出雪景色 

道後の夜春に馴染みしネオンかな

仏像の背中ほんのりあたたかき 

雛段をしまひ名残りのそこにあり

娘御のようにこの山笑ひけり

かきあげの全てが主役春の物 

地震来るそれぞれの春奪いをり

白魚や正論かざす人でなし

賑やかに集へ集へと花誘ふ

花仰ぎこの頃逝きし人思ふ

憧憬は幼き日へとチューリップ 

日永にてさらにのんびりのんびり屋 

若葉風光をまとふ小川かな 

故郷や一足早く蛙鳴く

我庭に幾種の緑ありしかと

緑陰で言葉を交わす二人かな 

神の火を扱ふ是非や道をしへ 

必然かローマの道と蟻の道 

しじみ蝶小さな花から小さな花 

好物の焼茄子作る無精もん

一寸の生涯終えししらすかな

慣らされし老舗の味や水羊羹 

万緑や少し濃いめに抹茶点て

瀬戸フィルに指揮されてをり夏の風

風鈴や時を忘れたフェルマータ

★ 失言で失笑買ひし心太

蝉の死は仰向けなるが常なりし

街歩き馴染みの店の鰻かな

名園や腰をおろして秋扇 

名園の枝ぶりは良し夏紅葉

百日紅訪ねそびれて四十年

世の瑣事は無しか眠る子扇風機  

夕立にずぶぬれてをる病かな 

大学芋親思ひ出し電話する

酒呑むか呑まぬか呑むか月に問ふ

月の絵に月は無くとも月灯り

残り萩優しく風を迎へ入れ

晩秋やネオンますます饒舌に

後の月仰げば湧きし里心 

ろうそくはジャズに揺られて秋の暮 

新酒つぐバカラにひとつキスをする 

銀杏やあれば呑みたくなる洋酒 

銀杏をむく優しさを食べにけり

銀杏やむく手間もまた旨さかな 

銀杏や友に貰った大吟醸

足元に空染め上げし散紅葉 

枯尾花なおも光を放ちけり 

一角に住まふ幸せ白椿 

不夜城のプラント濡らす時雨かな 

することが無くなりなんとなく炬燵 

絆といふことを大事に賀状書く