平成二十一年の俳句

鼓の音春は浅しと告げてをり 

風花や気まぐれほどに舞ひしかな 

それぞれの窓の明かりや春おぼろ 

枝ぶりの水面に向かう桜かな 

遠景をひきよせてをり春の海  

天麩羅にしたき新芽の山々を 

つるりんと白子箸から滑り落ち 

網戸から夜の気配を肌で聞く 

そら豆や季節を語る色形 

薔薇の棘ほどの悪意は美しき 

神与ふ矢車菊の青さかな  

どの店も入り口開けて風薫る 

木下闇木々は切り絵となりにけり 

★ 若葉風丘に景色を運びをり 

筆とりて墨の匂ひや夏の夜  

汗光る贔屓力士の初優勝  

西日浴び街頭演説汗光る 

竹落葉共に掃かれし団子虫 

柿栗と言ひ間違へて枇杷のこと 

手から手へ蛍の命明滅す

風は云う丘の景色は涼しいと 

歳時記の装丁いたみ夜の秋  

隣人が夏萩一つ見つけをり  

夕焼はやがて夜景になりにけり 

石段の上に見おろす萩のあり  

香りから思い出たどる金木犀  

気に入りし物語あり秋灯下  

★ 漆黒に螺鈿の如く後の月 

炉開や足の痺れも清々し 

約束を忘れてしまい時雨来る 

等圧線緩やかなりし小春かな  

枯萩になるまで刈らぬ主義の庭