平成十四年の俳句

むき栗を一つほおばり乗り初める  

大皿の椿に見入る縁かな 

食った気のせぬかさよりの刺身かな  

蕾見て早や花散るを気にしをり  

去る前に一言いへよかいつぶり  

花水木植えし道路の開通す 

蝦蛄の首刎ねる鋏の酷きかな 

目に映る新樹の山に向かひけり  

もんしろてふ二階の高さで添ひて舞ふ  

眠れぬ夜だまれ蛙の大合唱  

道をしへ迷へる道ををしへけり 

池辺に花火散らかしガキの跡 

蚊を逃し殺生せずや掌 

短命を訴へてをり蝉時雨 

秋の風時の流れに違ひあり 

不思議とはこれぞギアナの滝落つる 

★ 終わりたる花火去る人残る人  

秋めくやインクの香り句を留む  

ふと気付く秒針見つむ秋の時 

★ 墓参りしてきた母の声の張り  

しゃっくりを止める術あり虫時雨 

去年から捨てずにをりし吾亦紅 

夕方に見る朝顔に力なし 

★ 万物の色を変へたる初嵐 

汗かひてをりし試着はできぬかな 

戸を開けし虫の音はこぶ夜風かな 

キーボード孤独に響く夜長かな 

蜜柑食む句会を記す紙一枚 

仲秋や夕雲赫くちぎれをり 

君賞でし虹を我見ず夜の齟齬 

異星から見降ろす夜景秋の旅 

 如庵にて時は過ぎゆく法師蝉 

 ★ 月賞でよさすればこの世浄土なり 

水面には仰ぎし月の落ちてをり  

リーチ棒河に投げ込む虫の声 

知られざる月の名所や其処の池 

 闇に置く我の位置在り月仰ぐ  

ぐい呑みに浮かびし月を飲み干せり 

松虫の声は遠くに及ぶかな 

招かれし茶室の暗さ杜鵑草 

秋の蚊に刺されし予感正しけり 

あいうえお柿食ふ至福ドレミかな 

捕えたる蟷螂鎌をふりかざす 

ベンガラの壁から香る諸味かな  

澄み渡る閑けさ秋の声聞こゆ 

ものの色ものの音とも秋の暮 

ぬかばえや視野のノイズとなりにけり 

★ 凩の音に新聞届く音 

痩せし今脂肪の衣脱ぐ寒さ  

口あけて医者をみつむ年の暮  

置き物の恋猫キスをしてをりぬ 

子供には鯉しか見へぬ紅葉狩 

分からぬ語辞書にもあらず冬日和 

ポリーニの十指鍵盤狩る如し  

面白く分からぬ科学冬篭 

なにげなく蜘蛛を殺生残る悔ひ 

冬の蚊を打ち損じたるとろさかな 

鼻毛抜くその白き見る冬の夜  

救急車淋しく響く年の暮 

今をらぬ猫の思い出漱石忌  

嫌ひと言ふ母が海鼠を食ひにけり