1222333555AAAA

 2002630日、ワールドカップ決勝戦の日、父母が高松に来ており恒例の家族麻雀をしていた。1530ごろ我が家の麻雀歴史に刻み込まれる大事件が起こった。

 状況説明をしよう。わが家の麻雀は3人打ち、ナシナシルールである。東場2局、母が親で僕は母の下家であった。その事件がおこった場で僕は倍満をテンパッており河に捨てられていく牌に注意しながらゲームは進行していた。母の捨牌は中盤以降テンパッている様子で中張牌をツモ切りしていた。僕は白をツモッてきた。すでに白をポンしていた僕はアグレッシブにカンをしてリンシャンパイからイソコをツモッてきた。場を見る限りこのイソコはとおるだろうと思い、河にイソコを捨てた。すると母が「ロン」という。へー意外だなー。母は「四暗刻」と言う。母の麻雀歴は浅く「あー三暗刻トイトイか」と思っていると、母は「単騎」と言った。僕は蒼くなった。ここで説明するが四暗刻単騎というのはダブル役満でしかも親であるから9万6千を支払わなければならない。(東場ぶっとび1万5千)+(馬1万)+(ダブル役満御祝儀10万)+(9万6千)しめて22万1千点。点1なので2210円。僕が愕然として今日はもーこれ以上麻雀はすまい、と思った。そして母が牌をたおす。よく見ていると僕の心に一条の光明がさしこんだ。そして標題の、

1 222 333 555 AAAA

である。1222333555はソウズ。AAAAはピンズの暗カン。確かに四暗刻単騎である。しかしこれを見たときこれはチョンボの可能性があると直感的に感じた。説明しよう。

123 22 33 555 AAAA

と捉えるのである。確かにイソコで上がると四暗刻単騎である。しかし上のように捉えるとリャンゾウ、サンゾウの待ちもあるのである。しかもわが家のルールはナシナシ。ナシナシというルールの一つに低目で役がないとき、高目でも出上がりできないというルールがある。低目であるリャンゾウ、サンゾウでは悲しいかな役がない。AAAAのピンズがあるためにチンイツにもなっていない。イソコがあるためにタンヤオにもならない。123のシュンツができるので三暗刻にもならない。要するに整理すると、イソコでダブル役満、リャンゾウ、サンゾウが出た場合、役がないただのクズ手なのである。

 以上を興奮しながら母に説明した。母は悲しい顔つきになった。「えーウソだろう」。僕は助かったという気持ちになったが同時にかわいそうという同情の気持ちもあった。しかしルールに厳密な僕は冷酷である。「これは親のチョンボだから4千オールだ」。母は「えーこらえてやー」と言う。僕は「ルールだからしょうがない」と機械のごとく言った。もし僕が検事なんぞになっていたら冷酷で非常なまでに法を遵守するマシーン検事と言われて有名になっていたであろう。母は現実を理解はするがのみこめずと言った感じで肩を落としていた。少し時間がたって母は「なんてことはない。ただチョンボを払っただけの事と思ったらええーんや。勉強になったわ」。あまりにも母がサバサバしているので僕は母に「お母さんの心は澄み切った青で大きな海のようだ。母が地平線に見える」と笑いながら言ってやった。母も笑っていた。しかし、僕は四暗刻単騎を振り込んだ時の血がひいていく感覚が残っており、その半チャンをプレイしていても何かそわそわとして頭がふらふらしていた。それを見た父が「聡は気が小さいの」と言う。そうなのである、最近自認しているところなのだが僕は気が小さく気が弱い。だから対人関係もなかなか思うようにいかない。それに比べると母は外見気が弱そうで内面が結構気の強いところがある。父は外見も気が強そうで内面も外見の如く気が強い。どうしてこの二人から僕が生まれたのか?今僕が一番必要としている内面の要素である気の強さが親から遺伝しなかったことは悔やまれることである。その半チャンは僕が4万8千のトップでゲームセットとなった。麻雀漫画のネタになりそうな今回の事件について僕とは母は「現実は小説より奇なり」と話し合っていた。

 父母が夕方ごろ家に帰って僕はPM8時キックオフのサッカーワールドカップ決勝戦ブラジル対ドイツをテレビで観戦していた。ロナウドの2本のシュートもよかったがオリバー・カーンの守備もよかった。いい試合だった。民放のスポーツニュースをはしごしてAM0時床について眠りに入った。そしてあの母の幻の四暗刻単騎のことを考えていた。そして床のなかでしばらく考えているうちに、驚愕すべきもがくように身のよじれる強烈な事実を発見した。アインシュタインが相対性理論についてのひらめきを神から授かった時の気持ちがもしかしたら分かるような大発見である。

 母のチョンボは冤罪であった。しかもあの四暗刻単騎は成立していたのである。

 それを今から説明しよう。母の手は、

1 222 333 555 AAAA

であった。そしてリャンゾウ、サンゾウが出た場合、役が無くイソコでも当たれないというのが先ほどの説明だった。しかし、

13 222 33 555 AAAA

というようにカンリャンゾウ待ちと解釈すればこれは三暗刻の役がある。次に、

12 22 333 555 AAAA

と解釈すればこれもペンサンゾウ待ちとなり三暗刻が成立する。すなわち低めで役がないという事はなくナシナシのルールに沿ってもイソコで四暗刻単騎として上がれるのである。この事実が頭の中でひらめいたのがAM1時。この事実は麻雀のプロでもすぐにその場では気がつかないのではなかろうか。先ほど「現実は小説より奇なり」といったが、小説より奇なるこの現実はさらに内容をパワーアップした。僕はへこましたという気持ちが湧くのと同時に母に悪いことをしたと思うに至った。僕はこの事実に興奮してこのままでは眠れないと考え追加眠剤を飲んだ。

 麻雀はその場ごとに結果が成立しその判定は覆らない。全てのスポーツの審判が下した判定は覆らないのと同じである。次の場に移った瞬間にそれ以前の判定は確定し時効が成立するのである。かくして、母のあの四暗刻単騎は記録として残らず幻の四暗刻単騎としてナル男家に後世語り継がれていくのである。

しかし、このままでは母に気の毒なのでこの随筆を添えて母に3千円送ることとした。

2002.7.1.PM6:10